超音波カメラFluke ii900/ii910コラム -フル子の発明記「マイクの数と螺旋レイアウト」

 




超音波カメラFluke ii900/ii910コラム

フル子の発明記「マイクの数と螺旋レイアウト」

 

フル子は寝不足気味です。数日前から、夜になると外から聞こえてくる音が気になって眠れません。窓を開けても外は暗く、どこから音がするのか見ることもできません。そこでフル子は、まず音を録音してご近所さんに心当たりを聞いてみることにしました。

取り出したのはボイスレコーダーです。夜を待って、また今夜も聞こえる音の録音は完璧でした。「みんなこれを聞いてみて!」

おかしなことにボイスレコーダーからは何も聞こえません。どうすれば“聞こえない音”を説明することができるでしょうか。発明家魂に火がついたフル子は考えます。そうだ、音がカメラに映れば一目瞭然だし、場所が分かれば止める方法だってあるはずよ。

 ここで「音」について少し考えてみましょう。

「音」は空気を振動させながら伝わる「波」です。さらに言えば空気中を伝わる音波は「縦波」ですが、いきなり縦波の静止画では視覚的に分かりにくいため、ここでは横波を参考にします。



この振動を1秒間に繰り返す回数を周波数と言い、単位は「Hz(ヘルツ)」を用います。人の耳に聞こえる音波の可聴周波数はおよそ20Hz20000Hzの範囲で、加齢によって幅が狭くなります。健康診断の聴力検査で聞いているのは主に1000Hz4000Hzです。この周波数と空気中の音速から、波の長さ「波長」を求めることもできます。





可聴周波数を例にすると、人の耳に聞こえる音波の波長範囲は17m17mmと表現することができます。

 

さっそく発明に取り掛かるフル子は、20kHz以上の音波も検出できる高性能なマイクが必要だと考えました。さらに調べを進めてみるとマイクの数も1つだけより、多くのマイクで検出した信号を平均化すればノイズを低減できることが分かりました。そこで、64個のマイクを集めて持ち運べる1つのセンサーを作ることを考えます。

いっその事、マイクの数を倍の128個にすれば、より高性能になるのでしょうか? その倍の256個ではどうでしょうか?




マイクの数によるノイズ低減効果は、次の式で表されることが知られています。




計算の結果、マイクの数が64個の場合およそ18dBのノイズ低減が期待できます。これを倍の128個で計算すると約21dBとなり、3dBの違いがあります。「3dBも違うなんてすごいじゃないか!」そう単純ではありません。

マイクの数を倍にすれば、より高い信号処理能力を必要とするためシステム全体としての作動スピードの低下を招きます。消費電力も大きくなるためバッテリー寿命や発熱の心配もあります。要はバランスです。フル子は64個が「ちょうどいい」と判断しました。何より、実際に聞き比べても3dBの違いがピンと来なかったのです。

 

次にフル子が考えたのは、マイクの信号をカメラ映像に重ねる方法です。ただ信号を平均化してカメラにつなげただけでは、音がする場所を映像で見ることはできません。そこで利用したのがビームフォーミング技術です。ビームフォーミングはすべてのマイクからの信号を組み合わせて、音波検出の指向性を高めます。そして、“ある瞬間に64個のマイクが検出している音波にはズレがある”ことを利用し、あんな事やこんな事をするとカメラ映像の中に音の発生源を重ねて見ることができるようになります。そのため、マイク間の距離と波長との間で適切な比率を持つことが性能にとって極めて重要になります。

 

最後に、フル子は一体化センサーの寸法と64個のマイクの配置を決めることにしました。

センサーに配置された2つのマイクを考えたとき、その距離が一番長くなるのはセンサーの端と反対の端にあるマイクです(下図、A)。



これはセンサーの外形寸法に相当し、音波の周波数が低いときの性能に関係しています。センサー(マイク間隔)を大きくすれば低周波の性能が良くなりますが、大きいと持ち運びに不便なうえ、フル子が見たい音はボイスレコーダーでは撮れない高周波なので、今回はコンパクトなデザインにすることに決めました。

センサーに配置された2つのマイクの距離が一番短くなるのは、すぐ隣り合ったマイク同士です(上図、B)。これが高周波に対する性能に関係しています。波長に対して距離が長すぎると音波が一意的に定まらず、そこに存在しない“ゴースト”を生み出してしまいます。



対策としてマイクの個数を変えずに互いの距離を短く配置すると今度はセンサーが小さくなりすぎ、低周波の性能に与える影響が無視できなくなります。センサーの寸法を変えずに距離を短くするにはマイクの個数を増やすことになるため、バッテリー寿命などに影響を与えてしまいます。

八方ふさがりに見える状況ですが、そこは発明家、フル子は良いアイデアを思いつきます。64個のマイクを一定間隔の格子状ではなく、不規則に配置することでゴーストの発生を抑制できることに気づいたのです。そこでフル子はセンサー表面にむらなくマイクを配置することができ、それぞれのマイク間隔がわずかに異なるという不規則性を持たせるため、ひまわりの種の分布に見られる「フェルマーの螺旋」を使うことにしました。この方法で対応できる音波の周波数にも限界はありますが、フル子が見たい周波数範囲に対しては十分に機能するものです。

そして完成した一体化センサーが、これです。



縦横の寸法を16センチ未満に抑えたコンパクトなデザインで、最適な性能バランスを発揮します。中央にある映像カメラで撮影した映像と、周囲にある64個のマイクで検出した信号が重なり合い、音の発生源に色がついて見ることができます。さらにフル子は太陽光の下でも見やすいカラー液晶ディスプレイを一体化させて、求められる性能に対して、センサーの寸法、マイクの個数、操作性、持ち運びやすさ、バッテリー寿命などが、優れたバランスで実現されたカメラを完成しました。これでフル子の睡眠不足も解決しそうです。



完成したカメラで音の発生源を撮影したフル子は翌朝、ついに寝不足の原因を見つけ出しました。裏庭にあったのは害獣用超音波・・・

 


 

さて、フル子のカメラに使われたセンサーの寸法やマイクの数、不規則な配置には理由があることはお分かり頂けたでしょうか。

超音波カメラii900/ii910はそれぞれ、52kHz100kHzまでの超音波を検出できるマイクを使っているため(害獣用超音波発生器はもちろん)圧縮ガスのリーク検出、部分放電の可視化に役立つ画期的な製品です。

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フル子は架空の発明家です。

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